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この計画は九州人としてのぼくらのトータルな表現になりうる。

 

 この計画は九州人としてのぼくらのトータルな表現になりうる。コース取りはなぜか中央構造体、別府島原地溝帯の線上にあった。地震によってぼくらはより強くならなければならない。乗り越えること、行動することがその証明だ。妙に過敏になったり、あれこれ考えるよりシンプルに行動することを忘れたくなかった。一見ネガティブな経験も消化は昇華につながる。乗り越えるというよりは受け入れるということかもしれない。

 暗くなり始めている。僕はナビ車ハイエースの最後尾の荷室に横たわり足を無線の箱の上にのせて体力温存に努めることにした。

 長いタフな時間を過ごし、最後のセクションK-15はカヤックによる有明海の横断をこなさなければならない。20kmの行程はけして遠くはないが様々な天候、時間のズレ、やリレーというシチュエーションでのプレッシャーを考えるとサポート船はいても海上はぼくひとりしかいない。

 明日4日は日没後の30分つまり18:00時が行動限界だ。最後の瞬間になにが待っているかはわからない。今出来ること、はすなわち休養だ。「時間」という条件だけは努力次第で余裕が作れる。レースや競技ではなくても自然条件にあわせてなるだけ早い展開が必要だった。

 バスを途中下車したランナー桑本を熊本駅新幹線口で拾う。荷室に横になったまま「おーよろしく」とだけ挨拶。

 おたがいなにをやるかはわかっているので、

「やっ、こりゃこりゃ、やあやあどうもどうも先日はどうも失礼しました。最近いかがですがご商売のほうは?このたびは手前どものわがままにおつきあいいただき、もうしわけございませえええんん、おせわになりますうう。すいませんねえ。、、、、以下省略」などと長い挨拶はしない。

 なぜおくれたかも聞かない。ぼくは先生じゃない。

 数日前まで米国にいっていたらしい。みなそれぞれ忙しい日常を抱えている。不動産屋、デザイナー、市役所職員、立体駐車所経営、中華料理屋、靴屋、いろいろな人間が自分のテリトリーをこえてチームを形成する。日常を少しだけ超えて境界の上を歩いてみる。Art-plexはそれで成り立って来た。

 セブンイレブンで渡辺車と合流ピックアップ。喜佐田通称キサッチを伴っている。Art-plexのディレクター田河スイホーは連絡がつかず、(あとで職場で腰を痛めて参加不可となっていたことが判明)それぞれ短時間で食糧など買い物をする。全員揃っているかを調べていたら時間がかかりすぎる。その辺の呼吸はナビ長佐藤はよくわかっていた。

 渡辺ベンツ車長がいないが見切り発車。あとで追いつくなりなんなりすればよい。小学校の遠足ではないので早めのペースに合わせていく。ハイエースが出て行くときビニール袋に食料をいれて小走りにベンツに向かう渡辺が見えた。そのまま出発。この時点ですでに記録班の浅川。森の車両は大分に入っている。

 だれかが指示した訳ではなく、ロケハンをしながら行ったようだ。それぞれが役割を果たせばいい。おおまかに方針が決まっていれば方法はある程度まかせてしまおう。

 それぞれが役割を自ら決めればあとはもう大体うまくいくだろう。どんな社会でも自分の居場所をみつける能力こそ生きるコツだ。

 いろいろな情報と動きが入り乱れているがTKRの実オペレーションが始まった。

 それが組み合わさって生き物のように動きはじめたことに軽い驚きを覚えた。

 今年始めの計画立案からすでに9ヶ月。

 半信半疑の周囲の反応をよそに数回の会議とそれぞれの分担の中でのスカウティング、下見、サブ会議、自主的トレーニングを行って来た。

 ほんとうにやるんだーという昂揚が黙り込みがちなハイエースに満ちている。

 暗くなり月が出てきた。満月。ひたすら東にむかう荷室の後部は上下左右にゆれる。床の上から見る風景の中に月があった。女忍者畑と野口が後部座席にいる。会話が時々聞こえる。無線で3台の車両がやり取りする声。眠そうな声。松下の特殊バイク運搬車両に森部長が同乗。

 最後尾に渡辺ンツが続いている。

 途中数カ所で補給、など。あるところでトイレの必要があり停車。渡辺がベンツの後部座席から折りたたみテーブルを出しながらぼくに

「飯はドギャンスットですか?」